き合いもせずおとなしくのんびりと歩いている。女の子が一人だけついていてのどかな風光であった。
 時には驢馬が通り過ぎてみたり、豚が行列して沢山やって来たりする。そういう京都などではとてもみられない珍しい景色が見られたのである。

        揚州料理

 南京の帰りに鎮江へ行き、そこで花月という料理屋へ行ってみた。
 この家には畳など敷いてあって、むこうの座敷からは三味線の音が流れて来るといったちょっと内地を偲ばせるものがあった。
 軍と連絡をとってくれた兵隊さんも一緒だったが、このような料理屋で皆とくつろいで一杯やるのはいいとみえて、大へん楽しそうにしておられた。
 やがてその兵隊さんの案内で舟に乗って揚州に行き、柳屋という宿屋へ着いた。
 ここでは駅長さんがいろいろと心配してくれた。私は現代化されていない、わげ[#「わげ」に傍点]をゆうた支那らしい女性を写生してみたいと思った。どうも現代支那女性はみな洋風になってしまっていて、若い娘さんはパーマネントをかけている。そうではなしに是非純支那風の女性を描いてみたい。純支那風の人というと中年の婦人にたまたま見かけるだけなので、そういう
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