や悦びの現象を見てとることが出来るのである。
私はかつて麻酔剤をかけられて手術をうけたあとの病人を見舞ったことがあるが、その人はもちろん目を閉じたままベッドに仰臥していたが、麻酔がもどるにつれて、その苦痛を双の眉の痙攣に現わして堪えしのんでいるのをみて、これなどいささか直訳的ではあるが、眉は目や口以上にその人の気持ちを現わす窓以上の窓だなと思ったことであった。
同時に以前よんだ泉鏡花の「外科医」という小説を思い出したのである。
ながねん想いこがれていた若い国手に麻酔剤なしで意地の手術をうけたかの貴婦人も、手術をうけながら苦痛をこらえ、いささかの苦痛もないかのように装うてはいたものの、美しい双の眉だけはおそらく千言万句の言葉を現わし、その美しい眉は死以上の苦しみをみせていたことであろうと思った。
美人画を描く上でも、いちばんむつかしいのはこの眉であろう。
口元や鼻目、ことに眉となるとすこしでも描きそこなうと、とんだことになるものである。
しりさがりの感じをあたえると、その人物はだらしのないものになってしまうし、流線の末が上にのぼればさむらいのようになって折角の美人も台なし
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