に横山大観先生の楠公が納まっているのである。
私は一日も早く夫人の像を納めたいとあせるのであるが、楠公夫人のお顔がどうしても想像出来ないのであった。
ところが去年の春、以前私のお弟子さんであった女流の画人で、河内生まれの方がひょっこり訪ねて来て、談たまたま楠公夫人の話が出た折り、そのお弟子さんは、
「楠公夫人は、代表的な河内型のお顔であったという言いつたえが残っています」
と教えてくれた。
一体どういう顔立ちが河内型なのか私には一向見当がつかなかった。
「今でもたまには、その河内型の女性が残っているそうですから、発見したらおしらせします」
そう言って私のお弟子さんは帰って行ったが、しばらくすると、
「とても美人の河内型をみつけましたからお出でになりませんか」
と、いう手紙が来た。
私は急いで、筆と紙を持つと、その日河内の国へ発った。
甘南備の里の某家の若妻であった。
面長の色の白い品のいい顔立ちの婦人であった。
私がスケッチを頼むと、その婦人は私の目的を知らないので、何かてれくさいような容子をしていられたが、私のお弟子さんが、うまくとりなしてくれて、ようやくス
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