ると思われます。
 時代から言いましても、桃山には桃山の特長があり、元禄には元禄の美しさがあると思います。強いて言えば現代の風俗が一番芸術味に乏しいと思います。尠《すくな》くも私は現代のハイカラ姿が一番嫌いです。
 現代は女の扮装法にしましても、化粧法にしましても昔に較べれば、較べものにならないほど各方面とも著しく進歩して便利になっているはずですのに、なぜその風俗が非芸術的に見えるのでしょう。それは、女自身がそれぞれ自分の性質なり姿顔形なりにしっくりふさわしいものがどれだというしっかりした考えがなくて、ただ猫の目のように遷《うつ》り変わる流行ばかりを追うからだと思います。自分に似合っても似合わなくても女という女が皆、二百三高地が流行《はや》れば二百三高地、七三が流行れば七三と、長い顔の人も円い顔の人も、痩せた丈の高い人も肥った背の低い人も、一様な風をするものですから其処に少しも調和のとれない、混雑した、落着かない好もしからぬ風俗が出来上るのだと思います。
 近頃の電車の中などでも、昔のように丸髷や文金などの高雅な髪を結った人が少なくなりまして、馬糞をのせたような手つくねの束髪を余計に見
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