るようになりましたが、どんなに上等な美しい服装も一向に引立たないで、お気の毒な気もしますし、時には浅ましくさえなって現代を詛《のろ》いたくなります。
 流行っても流行らなくても自分に似合ったところはこれだと思った風をする考えが、女の人に出て来るようにならなければ嘘だと思います。私には、どうしても昔からの髷は一番日本の婦人にはしっくり似合うように思われます。
 それでは昔からの日本の婦人で誰が一番好きだ、と言われますと、これは風俗からではなくて心の現われからという風に思われますが、私は朝顔日記の深雪《みゆき》と淀君が好きです。内気で淑かな娘らしい深雪と、勝気で男優りの淀君とは、女としてまるきり正反対の性質ですけれど、私にはこの二人の女性に依って現わされた型が好きなのです。まだ盲目《めくら》にならない深雪が、露のひぬま……と書かれた扇を手文庫から出して人知れず愛着の思いを舒《の》べているところに跫音がして、我にもあらず、その扇を小脇に匿《かく》した、という刹那のところを一度描いたことがあります。淀君はまだ描いて見ませぬがいずれ一度は描いてみたいと思います。



底本:「青眉抄・青眉抄拾遺
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