席にお会いしたときと、違った気持で、まことに感銘の深い思いであった。

     光華門にて

 南京の城内には博物館があると聞いた。私は大きな収穫を期待し、是非にと見物に出かけたのだが、先ず第一に絵画というものが新古ともに無いのに失望してしまった。或は戦争に巻きこまれぬ前はこうでもなかったのかも知れないが、まことに落莫《らくばく》としたものである。模様や字様のものの細々と彫っている大きな玉板であるとか、あまり風懐に富んでもいない石仏とか、いずれは考古学上にはそれぞれ由緒あるものであろうが、おかしな言い方であるが、妙に重いもの、かさばるものばかりであるといった感じだった。それにあまり珍しいとも思えぬ動物の剥製など。私の眼をひいたものと言えば種々の墨ぐらいのものであった。相当よいもので、これも装飾用のものでもあろう、大きなものであった。
 皇軍の尊い血の匂いのまだ残っている新戦場としての光華門では、当時此処の戦闘に参加した将校さんの説明を聞いた。四辺は既に片づけられ、此処に散華した勇士達の粗末な墓標が、まだ仮りの姿で立っているだけであるが、季節も丁度こんな頃ではなかったのか、澄み透る空気
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