とになり、秘書を案内に貸して下さった。
楽屋は二階をあがったりおりたり、特有な臭をおしわけてゆくような処で、日本でいう大部屋という感じだった。チャリも三枚目も女形も大将軍も一部屋にごちゃごちゃと座を持っていた。
私が写生帖をひらき皇帝になる役者を写し始めると、ほかの者もよって来てあれこれと批評している。似ているとか似ていないとか言っているのだろうが、そうすると折角のモデルの皇帝までがのこのこと写生帖をのぞきに来るのには弱った。
モデルにもなれず、写生帖ものぞくひまもなく舞台に出て行った役者の一人は、舞台をすますと大急ぎで走り戻り、自分も写して貰いたいのだろう、ほどよい処に陣取って形をつくってすましかえっている御愛嬌には笑わせられた。私はふっと特務機関長のところの門衛の支那兵を思い出したりした。
杭州にて
杭州では西冷印社という印肉屋に朱肉を見に行ったりした。少し茶色がかった朱肉などもあった。
西湖に姑娘《クウニャン》が漕ぐ舟を浮べ私や三谷は写生帖を持ちこんだ。
平仙寺雲林寺等の山門は戦禍をうけていたが寺々のものは何ともなっていなかった。その寺の奥には、寝床、便
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