子して暮しましたが、結局どもならんしで、丁度、高倉の蛸薬師下るに家がありましたので、そちらへ宿がえすることになったわけでした。
 従来、私どもの家はお茶々を商うのが家の業いでございまして、蛸薬師下るの方へ移りましても矢張お茶々の商売をいたしました。火事でただ一つ焼け残ったお茶々の壺を抱いて移転したわけです。
 その年の暮、ただ一人の私の姉は嫁ぐことになりまして、何かとそれまで我儘に暮しました私は、母と二人きりになったのでした。なにしろ母もまだ若く、私も二十にならぬころのことでございますし、その上、さきの四条通とはちがいまして、夜になると早々店を閉めるといった極めて静かな場所、それに昨日までいた姉もいず、随分と心細い思いをしたことを今も覚えています。それに母と二人のことで手は足らず、朝起きると表を開け、戸をくり掃除をし、台所へ行って七輪に火をおこしてお茶を湧かすといった順序で、姉がした分も何かと加わってきたわけでございました。始めの間は、何だかどっと一度にたてこんできたように思われ、そのなかであわてたものでございましたが、その時、私は何でも始めの用意をきちんと整えておかんことには、後前が
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