税所敦子孝養図
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)税所《さいしょ》
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 日露戦争が終ってから間もなくのことであった。
 わたくしのあと継ぎの松篁が行っている初音小学校の校長先生が、わたくしの家を訪ねて来られて、
「学校の講堂に飾って置きたいのですが、ひとつ児童たちの教訓になるような絵を是非描いて寄贈してほしい」
 と、言われた。
 非常に結構な話であり、一枚の絵でもって何千何万の児童に良い影響をあたえられるとすれば画業にたずさわるものとして、この上もない悦ばしいことであるので、わたくしはお引受けしたのであるが、さて教訓的なものとなると、何を描くべきかに迷って、当座は筆をとらずに、画材について、いろいろと思案をして日を送ってしまったのである。
 その後、校長先生は再三お見えになって、頼まれるのであったが、どういうものを描こうかと考え考え、なかなかにそのおもとめに応じて筆をおろすことが出来なかった。

 ある日、たまたま読んでいた本の中に、次のような歌があったのが、いたくわたくしの心にふれたのである。
    朝夕のつらきつとめはみ仏の
   
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