文字で、いろはが書かれてあった。
「大したものどすな」
「どないして書かはったのどす」
私と母とは、交※[#二の字点、1−2−22]に感心の首をふって訊ねた。
「私の父は、一丁先にある豆粒が見えるほど目が達者なのです。それで目の前の米粒は西瓜ぐらいに見えるのだそうで、これにいろは四十八文字をかきこむくらい朝めし前です」
「たいしたものどすな」
「そんな目ってあるもんどすかな」
そこで私と母は、もう一度感心したものである。
すると米粒の男は、次に白豆を一つとり出した。
「これには七福神が彫りこまれてありますよ」
そこで私たちは、また虫眼鏡でのぞいた。なるほど、弁財天も大黒様も福禄寿も……それぞれの持ちものをもって、ちゃんと笑うものは笑い、謹厳な顔の神はむつかしい顔をして、七つの神はきちんと彫りこまれてあるのであった。
「こりゃ美事どすな」
「いろはよりも大したもんどす」
私と私の母は声をそろえて感歎した。絵かきの私など、その七福神の一つ一つの表情にまで感心したものである。
「父はこれを描くのがたのしみでね」
と、件《くだん》の男は言うのである。
「こりゃ二度と見られん珍宝
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