縮図帖
上村松園

 縮図は絵の習いたてからとっており、今でも博物館あたりへ通って縮図して来ることがある。

 そろそろ絵を習いはじめた頃、松年先生、百年先生の古画の縮図をみてはそれをその通り模縮写させていただいたものである。

 その時分展覧会があるごとに、どんな場合でも矢立てと縮図帖とは忘れずに携えていっては沢山の縮図をしてきたものだ。
 花鳥、山水、絵巻物の一部分、能面、風俗に関する特別の出品物まで、いいなと思ったものはどしどし貪欲なまでにことごとく写しとったものである。

 縮図帖に用うる紙は一定していないが、なるべく庵つきのよいものを選んで綴じ合わせて用いた。近頃はうすい硫酸紙で描いているが、これだと裏表両面の使用が可能で花など写生するのには便利がいい。
 今の若い人たちは鉛筆で縮図の勉強をやっているが、私は使いなれたせいか矢立てと筆の方が描きやすい、習慣でそうなったのであろう。
 絵というものは最後は筆でかかねばならぬもの故、縮図したりスケッチしたりする場合でも常に筆をつかっていると、筆の線もそれだけうまくなるわけで、鉛筆でするよりは修業になるのではなかろうかと思われる。

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