屋だつたと覚えてゐます。
表へ出て二、三歩あるきかけた時、なぜかしらぽろぽろと熱い涙がこみあげて来ました。
六
その翌日の事です。むしがしを使ひのものに持つて行つてもらひ、手紙を付けてやりました。
成程お邪魔を致しました事は、まことにお気の毒に存じます。しかし私にして見れば、研究のためで、つい気のつかぬことをいたしました。今後は、お邪魔にならぬ程度に、何卒お見せを願ひます――と云ふやうな意味のことを書きました。
それからは、先方も大変、好感を有つて見せてくれるやうになりました。
今日では写真版があつて、さうしたおもひをしなくとも、どんな名作をも居ながらに見ることが出来ますが、以前はなかなかさうは行かなかつた。しかしその不便さのなかで、現実に自身の手で、写し取つておいたものは、いろいろな点で、それが自分につけ加へるものがあるとおもひます。
そのころ、四条の御幸町角に、吉観といふ染料絵具や、いろいろの物を売つてゐた家があつて、そこへよく、東京から、芳年や、年方などの錦絵が来てゐました。もつともここばかりではなく京都では、錦絵を売る家は、二、三軒もありました。さういふも
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