もありました。
祇園祭の屏風や、博物館の陳列の作品をかかさずに必ず出かけて行く、これと思ふものは殆んど、余す処なく、花鳥人物、山水のきらひなく、それぞれ縮図をした。
応挙の老松の屏風や、元信の巌浪の襖絵や、或は又島台の有名な又兵衛と云はれてゐる、美人の屏風や、何しろ今、古い縮図帖を引き出して見ると、さまざまな作品の写しが出てまゐります。
祇園祭、はうばうの屏風絵があつて、小さな縮図帖と矢立をもつて出かけるのでした。そして一々古屏風の前に座つて、足のしびれ切るのも知らずに、写し続けます。又博物館なぞでも朝から立ち続けで縮図をしてゐると、昼の食事もせずに写すのでした。写してゐると欲が出て、空腹が忘れる程におぼえます。
始めのうちは、うまく行かない、写してゐるうちに次第に気合がのつて、ひとりでにすらすらと正確な摸写が出来て行く。
たとへば混みいつた、群衆を写し取るにしても、或は一人の人物の立像を写すにしても、それが突き出した右手の拳から写し取つて行つても、ふみ出した足の爪先から写し取つて行つても、どこから写し始めるにしても、形にくづれが来ずにちやんと不都合のない写しが出来て行きます
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