四条通附近
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一入《ひとしお》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)緋もみ[#「もみ」に傍点]の裂
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 四条柳馬場の角に「金定」という絹糸問屋があって、そこに「おらいさん」というお嫁さんがいた。
 眉を落としていたが、いつ見てもその剃りあとが青々としていた。
 色の白い、髪の濃い、襟足の長い、なんとも言えない美しい人だった。
 あのような美しい、瑞々した青眉の女の人を、わたくしは母以外に識らない。

 お菓子屋の「おきしさん」も美しい人であった。面屋の「やあさん」は近所でも評判娘だった。
 面屋というのは人形屋のことで、「おやな」という名であったが、人々は「やあさん」とよんだ。
 舞の上手な娘さんで、ことに扇つかいがうまく、八枚扇をつかう舞など、役者にも真似ができないと言われたほどで、なかなかの評判であった。
「やあさん」のお母さんは三味線が上手で、よくお母さんの糸で「やあさん」が舞うていたが、夏の宵の口など、店先から奥が透けて見える頃になると、通りに人が立って、奥の稽古を見物してい
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