いられるところを拝見していると、こちらの手先にまで力がはいるくらいに荒いお仕事ぶりであった。筆に力がはいりすぎて途中で紙が破れたことなども時々あった。
私はよく先生の絵の墨をすらされたものである。
先生の画風が荒っぽいものなので、自然お弟子たちも荒々しくなる。それで墨をすらしても荒々しいすりかたをするのでキメが荒れてなめらかな墨汁が出来ない。
「墨すりは女にかぎる」
先生はそう言って墨だけは女の弟子にすらすことにされていたのである。
先生の画室には低い大きな机があって、その上へいつもれんおち[#「れんおち」に傍点]の唐紙を数枚かさねて置いてある。
先生はそこへ坐られると、上の一枚に下部から一気呵成に岩や木や水や雲といったものをどんどんと描いていかれる。
水を刷いたりどぼどぼに墨をつけた筆をべたべたと掻き廻されるものであるから瞬く間に一枚の紙がべたべたになってしまう。
そうすると先生はその上へ反古《ほご》を置いてぐるぐると巻いて側へ放り出される。
次の紙にまた別の趣向の絵をどんどん描いていかれる。すぐに紙がべたべたになる。前と同じように反古に巻いて放り出す。
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