写生帖の思ひ出
上村松園

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)褪《さ》め掛けた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)皆|素味《ぢみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
−−

 いつからとなく描きためかきためした写生帖が、今は何百冊と云ふ数に上つてゐる。一冊の写生帖には、雑然として写生も縮図も前後なく描き込んである。が、さうしたものを時折繰りひろげてみると、思ひ掛けもない写生や縮図が見付かつて、忘れた昔を思ひ出したり、褪《さ》め掛けた記憶を新にしたりする事がある。私の為めには、古い新しい写生帖が懐かしい絵日記となつて居る。
 私の絵日記の一番古いのは十三位の幼い頃から始まつてゐる。見るにも堪へない程拙ない筆の跡ではあるが、しかしそこには絵を習ひ覚えた頃の幼い思ひ出がにじみ出てゐて、限りもなく愛着させられる。私の覚束ない筆の写生や模写と並んで、達者な線の絵があると思つ
次へ
全6ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング