ひとつの位をもった舞でありまして、私は型の上から二段おろしを選んで描きました。
 何ものにも犯されない、女性のうちにひそむ強い意志を、この絵に表現したかったのです。幾分古典的で優美で端然とした心持ちを、私は出し得たと思っています。

 この絵は私のあとつぎである松篁の妻のたね子や、謡の先生のお嬢さんや、女のお弟子さんたちをモデルに使いましたが、たね子を京都で一番上手な髪結さんのところへやって一番上品な文金高島田に結わせ、着物も嫁入りのときの大振袖をきせ、丸帯もちゃんと結ばせて構図をとったのであります。
 最初は上品な丸髷に結った新夫人を、渋い好みの人にして描くつもりで、丸髷にして写生をはじめたのでしたが、舞の二段おろしになりますと短い留袖では袖が返りません。
 この袖を返すところに、美しい曲線があり絵の生命も生まれてくるので、急に令嬢風に改め振袖姿にしたのであります。

 髷のふくらみ、びんの張り方、つとの出し方が少し変っただけでも、上品とか端麗とかいった感じが失われてしまいます。
 そういう細かい点にはいってくると、女の方でないと、男の方にはとてもお判りになりません。
 その点につい
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