した。それであのままにして置いてはみっともないから朝のうちに来て直して下さい」
との挨拶でした。それだけ言ったきりで、陳謝の意も表さず、責任のない顔をしているのが私には気に入りませんでした。亀遊をかいた当時の私は「女は強く!」ということを心から叫んでいたので、
「誰がしたのですか。卑怯な行為です。おそらく私にへんねし[#「へんねし」に傍点]を持っている者がやったのでしょうが、それなら絵を汚さずに私の顔にでも墨をぬって汚してくれればよい。かまいませんからそのままにして置いて下さい。こっそり直すなんて、そんな虫のいいことは出来ません」
私は肚がたったので、そう答えました。
女とみてあなどっていた事務所の方も、私の態度があまりに強硬でしたので、あわててあらためて取締不行届を陳謝して参りましたので、私もそれ以上追及しませんでした。
間もなく会期も終るので、そのままにして置きましたところ、物好きな人がいて、あの絵をぜひ譲ってほしいと言って来ましたので、私は念のために鶯の糞で顔の汚れをふきましたら奇麗にとれたので、それを譲りましたが、犯人はそれきり判らずじまいでした。
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