女は強く生きねばならぬ――そういったものを当時の私はこの絵によって世の女性に示したかったのでした。

 亀遊のこの歌をみるごとに、私は米英打つべし! を高らかに叫んだ水戸の先覚者、藤田東湖の歌を想い出すのです。
[#ここから4字下げ]
かきくらすあめりか人に天日《あまつひ》の
   かゞやく邦の手ぶり見せばや
神風のいせの海辺に夷らを
   あら濤たゝし打沈めばや
[#ここで字下げ終わり]
 東湖のこのはげしい攘夷の叫び声にも負けない気概を、遊女亀遊はこの辞世の一首に示しているのであります。
 いわば「遊女亀遊」のこの一作は私の叫び声ででもあったのです。

 この絵について憶い出すのは、会場のいたずら事件です。
 画題がめずらしかったので、会場ではこの絵は相当の評判になって、この絵の前にはいつも人だかりが絶えなかった。
 ところが、女の私の名声をねたむ人があって、ある日看守のすきをねらって、何者とも知れない不徳漢が、亀遊の顔を鉛筆でめちゃめちゃに汚してしまったのです。

 そのことを発見した事務所の人が、私の家へやって来て、
「えらいことが起こりました。誰か知らんがあなたの絵を汚しま
前へ 次へ
全13ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング