、その晩帰宅して紙を継ぎ足して又その翌日その続きを写しにいったりしたことがあります。

     祭の夜

 祇園祭の夜、中京の大きなお店で屏風を飾られるのを写して歩くのも、私にはなかなかの勉強でした。お断りして半日も同じ絵の前に坐り込んで縮図したことはたびたびのことでした。福田浅次郎さんのお宅の由良之助お軽、丸平人形店の蕭白《しょうはく》の美人、鳩居堂にも蕭白の美人があります。二枚折の又兵衛の美人観桜図は山田長左衛門さんと山田嘉三郎さんとに同じ図がありまして、私は嘉三郎さんの方のを縮図させて貰ったのを覚えて居りますが、先度《せんど》、長左衛門さんの方のが売立に出たことがありましたので、久し振りに拝見に出ましたが、どうも同じ図同じ彩色ですが筆味が違うように思いました。一方が密で一方が荒ッぽい所があります。随って絵の全体の味に違いがあります。としますと一方の荒ッぽい方が模写したものなのかしらというような気もされました。

     写生

 私の帳面は縮図も写生も一緒くたでございます。素《もと》より他人に見せる積《つも》りの物ではなく、唯自分一人の心覚えのためですし勉強のためでありますか
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