写しました。若さと熱心さがさせることではありますが、朝から坐り込んで晩までお昼の御飯を抜いて描きつづけたことも度々あります。

 売立の会のことですから、都合によっては掛け換えられないでもありませぬし、もし昼飯《ひる》に立ったりしていて掛け換わりでもしては写し損ねますので、坐り込んでしまったわけなのでしたが、その頃は今のようにそうした場所で縮図などしているような人もありませず、それに何処のなんという女子《おなご》やら、誰も知った人もない名もない頃の私なのですから「アッ又来やはった」などと小僧さんや丁稚《でっち》さん達が、わざと私に聞こえよがしの蔭口を利くことなども度々でした。

 一度はこんなこともありました。前後も忘れて一生懸命に縮図をして居りますと「あ、もしもし、そこにそんなにべったり坐り込んで居られますと、お客さんが見に来られるのに邪魔になりますがなア」というようなことをむきつけ[#「むきつけ」に傍点]に番頭さんに言われました。その時には思わず涙が落ちました。私にしましても、最初から商売の邪魔になってはならぬと思いますから、遠慮しいしい小さくなって写しているのです。それをそう意地
前へ 次へ
全8ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上村 松園 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング