間に積もり積って重ねましたら、二、三尺ぐらいの高さにもなるほどの嵩《かさ》になって居ます。

 今時とは違いまして、私の若い頃の女の絵の修業には、随分辛いことが沢山ありました。世間の目も同僚の仕打ちも、思わず涙の出ることが何度《いくたび》となくありました。そんな時は唯、今に思い知らしてやると、独り歯噛みして勉強々々と自分で自分に鞭打つより外に道はありませぬでした。そうしては博物館に通い、時折の売立会《うりたてかい》を見に行きして、これはと思うものを縮図して居りました。それが集まったこの帳面なのです。立派に装釘された金目な参考資料などは、一、二度翻えして見ては居ましても記憶にも止まっていないものもあります。ですが私の縮図帳には其の時その時の涙が織り込まれ感奮が描き込まれているわけでございますから、忘れようとしても忘れられぬ思い出があるのです。

     売立の会

 その頃は売立の会などにしましても、今日ほど繁々あるわけでもありませず、時折祇園の栂《とが》の尾《お》辺で小規模に催されるくらいでした。したがってそんな会は私にとっては大切な修業場でした。私は矢立を持っては絵の前に坐り込んで
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