座右第一品
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縮図《しゅくず》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その日|良則《よしのり》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)むきつけ[#「むきつけ」に傍点]に
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     縮図の帳面

 もう大分と前の話ですが、裏ン町で火事があって火の子がパッパッと飛んで来て、どうにも手のつけようがないと思ったことがありました。火の手があまり急に強くなりましたので、家財道具を取り出すという余裕もありませず、イザ身一つで避難しようとします時、何ぞ手に提げて行けるほどの物でもと、そこらを見廻しながら、咄嗟のうちにこれをと思って大急ぎで風呂敷に包んだのは、長年の間に集まっている縮図《しゅくず》と写生の帳面でした。

 その時は、幸いにも大事になりませず、別に避難もしないで済んだわけですが、そうした急場で咄嗟の間に思い当らせられるほどに、縮図と写生の帳面は強い深い思い出を持たされて居ります。いろんな紙を自分で綴じて作った帳面ですから、形も不整いで大小があり厚薄がありますが、何十年かの
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