上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)曾《かつ》て

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(例)[#地付き]
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 この図を描くに至つた動機と云ふやうな事もありませんが曾《かつ》て妾《わたくし》は一茶《いつさ》の句であつたか蕪村《ぶそん》の句であつたか、それはよく覚えませんが、蚊帳《かや》の句を読んで面白いと思つて居りました。併しそれを別に画にして見たいと云ふ程の考へもなく過ぎました。
 夏の頃フト蚊帳の記憶を喚《よ》び起して、蚊帳に螢を配したならば面白かろうと思ひ付いたのが此画を製作するに至りました径路でした。
 併し唯《ただ》螢では甚だ引立ちませんから、美人を主にしたので云ふまでもなくこの図は美人が蚊帳を吊りかけて居る処へ夕風に吹き込まれてフイと螢が飛び込んだのを、フト見つけた処です。
 蚊帳に美人と云ふと聞くからに艶かしい感じを起させるものですが、それを高尚にすらりと描いて見たいと思つたのが此図を企てた主眼でした。良家の婦人を表したのです。時代は天明の少し古い処で、その頃の浴衣《ゆかた》を着て、是から寝《やす》まうとす
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