延長をし、夕方お風呂を浴びてぐっすり寝る。すると十二時前に決まって目がさめる。それから絵筆をとって翌日の午後五、六時ごろまで書きつづけるのである。
 一週間頑張って招待日にはどうにか運送のほうが間にあったので嬉しかった。
「夕暮」という作品が夜通しの一週間のほとんど夜分に出来上ったということも何かの暗示のように思えるのである。
 医者が来てこんどは怒ったような顔をして言った。
「あなたは倒れるぎりぎりまで、やるさかいに失敗するのです。今にひどい目にあいますよ」

 無理のむくいを恐れながらも私はいまだに興がのり出すと夜中にまで仕事が延長しそうになるのである。
 警戒々々……そんな時には医者の言葉を守ってすぐに筆を擱《お》く。そのかわりあくる朝は誰よりも早く起きて仕事にかかるのである。

 一般には画は夜描きにくいものであると言われているが、しかし画を夜分描くことは少しも不思議ではない。
 世間の寝静まったころ、芸術三昧の境にひたっている幸福は何ものにも代えられない尊いものである。

 ときどき思うことがある。
 これだけの無理、これだけの意気地が私をここまで引っ張って来てくれたのであろ
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