う……と。
私は無理をゆるされて来たことについて、誰にともなくそのことを感謝することがある。
私の母も人一倍丈夫な体をもっていた。病気というものを知らなかったようである。
若くから働く必要のあった母は、私同様に病気にかまってはいられなかったのであろう。
働く必要が母に健康をあたえてくれたとでも言うのであろう。
母は八十歳の高齢ではじめて床に就き医者をよんだのであるが、その時、脈らしい脈をとって貰ったのはこれが始めてだ、と私にもらしていた。
母は八十六歳でこの世に訣れを告げたのだが、私もまだまだ仕事が沢山あるので寿命がなんぼあっても足らない思いがする。私は今考えている数十点の絵は全部纒めねばならぬからである。
私はあまり年齢のことは考えぬ、これからまだまだ多方面にわたって研究せねばならぬことがかずかずある。
生命は惜しくはないが描かねばならぬ数十点の大作を完成させる必要上、私はどうしても長寿をかさねてこの棲霞軒に籠城する覚悟でいる。生きかわり死にかわり何代も何代も芸術家に生まれ来て今生で研究の出来なかったものをうんと研究する、こんな夢さえもっているのである。
ねが
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