苦楽
ある人の問いに答えて――絵を作る時の作家の心境について私はこう考えています。
上村松園

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)畢竟《ひっきょう》
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     一

 画の作家が、画をつくることについて、ある作家は、これを苦しみだと言います、それからある作家は、楽しみだと言います。
 作家が画を作ることが、果たして苦しみでしょうか、また楽しみでしょうか。
 これは考えようによって、どちらも本とうだと言えましょう。私は画を作ることは、私ども作家にとって、苦しみでもあり、また楽しみでもあると言いたいと思います。
 それはどうして苦しみであり、楽しみであると言えるでしょうか。これはいずれにしても、作家でないと分らない心持ちだと思います。作家であって、初めてこの真実味が分るのだと考えます。

     二

 画を作ることは、実際苦しいことです。苦しみなくしては、価値の善悪上下は別として、これでどうにか満足しえられるというだけの作品は生まれて来ないだろうと思います。
 だが、しかし、苦しみだけでは、画は出来ないと思います。少なくとも、自分に納得しえられるよう
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