旧い記憶を辿つて
上村松園
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)恰度《ちやうど》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)恰度|栖鳳《せいほう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]
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その頃の絵は、今日のやうに濃彩のものがなくて、何れもうすいものでした。恰度《ちやうど》春挙《しゆんきよ》さんの海浜に童子の居る絵の出たころです。そのころは、それで普通のやうにおもつてゐたのでした。今日のは、何だか、そのころからみるとずつと絵がごつくなつてゐるとおもひます。
法塵一掃は墨絵で、坊さんの顔などは、うすいタイシヤで描かれてゐました。尤も顔の仕上げばかりではなしに、一体にうすい絵でした。この作品が出品された年は、恰度|栖鳳《せいほう》先生が、西洋から帰られた年でして、獅子の図が出品されました。その時分に屏風などが出てゐましたが、併しまたとても今日の展覧会などに出品されさうもないやうな小さな作品も出てゐました。寸法に標準と云ふものがまるでなかつたのでした。
私が二十五、六か七、八歳頃、森寛斎翁はなくなられまし
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