清浄な気が一日、保たれるのでございます。
 その上、絵の具は、使わぬ時はピタリと蓋《ふた》を閉じておきますので、絵の具の中には、塵《ちり》一筋も入りません。私は、他のことは杜漏《ずろう》ですが、画に関する限り、誠にキチンと骨身を惜しまずいたします。絵の具が汚れていたり、辺りを取り散らかしていては、決して清い画が描けるものではないと存じております。こうして、精進をつづけて、雪の図ができ上がりました時、三室戸様が御上洛なされ「なかなかの力作だ、是非、六月の行啓に間に合わせ、御所で上納できるよう一層励んで下さい」といわれました。
 遂に、六月二十日、「雪月花」三幅を完成いたしました。藤原時代の御殿の風俗を雪月花の三幅に描き出したものでございます。雪は、清少納言に倣《なぞ》らえたものと思って下さってもよいでしょう。
 二十四日、三室戸様に伴われ、皇太后様御滞在中の御所へ、上納の御挨拶を言上に上がりました。翌日、二十五日陛下御誕辰の佳《よ》き日、三室戸様が御拝謁の折りは、丁度、画を叡覧遊ばされていらせられ、一層御満足の御様子に拝されたと漏れ承りました。
「今年こそは、果たさなくては相すまぬ」と、
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