受けたためと思っております。母が亡くなる直前、私の古い弟子の一人が、母の写真を撮《と》り、絹地に大きく引き伸ばしてくれましたので、唯今仏間に掲げてございます。これがあまりによく写されておりますので、今も生きてそこにおられるかと思うほどです。息子の松篁《しょうこう》も私も、旅に出る時は、ちょっと、
「行ってまいります」と頭を下げ、帰ると「唯今かえりました」と自然、挨拶をするようになりました。

     謡曲・鼓・長唄

 余技としましては、金剛流の謡曲を二十年近くしております。仕舞を舞うこともございます。鼓と長唄もしております。昔は地唄をいたしたものです。余技とはいえ、私はこれらのものを、遊びとは考えておりません。相寄って私の芸術を豊かなものにしてくれるような心持がいたしております。春秋には謡のおさらい会がございますが、シテになって一人で謡うことがあります。息子の松篁もしておりますので、謡った後で、
「私のはどうやった」ときいて見ますと、
「上手下手は別として、とに角、堂々とうたってはる」と申しましたので、笑ってしまいました。謡の先生も「何より心から楽しんで謡うのが本当です」と言われま
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