いように思います。特別にその時代の風俗ばかり描こうと思い立ったりしたわけでなんかないのですが、娘にしても如何にもしおらしい娘らしさがあるような気がするし、それに櫛だとか簪だとか笄《こうがい》だとか、そういった髪飾りやその他の装身具にも、その頃の物には変化に富んだ発達が見られるように思われ、兎に角何か描こうと思う時一番興味深く思い浮かべられるのは徳川末期の風俗です。

 今でも私は現代風俗を取扱うまいと思っているわけではない。いつ何時描く気になるかも知れない。しかし帝展あたりに出品されている現代風俗の絵に見るような、あんな写実一点張りという見方描き方でなしに、描くなら古典味を加味したものでやってみたいような気がします。だから、帝展あたりの出品を見ると皆、ああでもないこうでもない、という風にばかり感じて、どうもしっくりこれだという気になれる作品に出会わないような気がする。何故現代風俗そのままの写実的な描き方が、私にしっくりした感じを起こさせてくれないのかしら、と思って見たりもするが、まあ強いて言えば、目まぐるしいほど後から後から移り変って行く流行の激変に、理想的な纒まりがないとでもいうよう
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