二人の方も、新しく描かねばならないことになりました。これは私としましては随分予定狂いの大事《おおごと》ではありますが、といって何とも方法のない勢いとなって来ているので、到頭意を決してあとの片双の揮毫に着手することにした。幸い下図は以前のものが残してあったので、それを本紙に写し掛けたのが十二月半ば頃ででもあったでしょうか。
 図組みはそっくり以前のままを使い、色彩も向って左方に屈んでいる娘の着物の色を、薄紅系統に変えて、右方に立った娘の薄紫地のものと対象させることにしたくらいより変更しなかった。もっとも屈んだ女の帯の濃緑地の上に、金糸の刺繍を見せた泥描きの模様を、新規のものはお目出度い鳳凰模様としたり、あしらいに飛ばしてあった春を思わせる胡蝶の数の、四匹を三匹にしたりした程度のいささかの変りはある。もっと早く仕上げる筈が、だんだんと日が迫って来るので最後に近い何日かは、毎日夜中の二時三時頃まで筆を執りました。
 こうしてやっと最後の筆を擱《お》いたのが、一月二十六日の午前二時頃でした。前後四ヵ月の間、ズッとかかり通したわけですが、近頃身を入れた制作であったと言えば言える気がします。

 
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