すとき》の下着の模様をほのかに透かす、黒地の薄物を着た女、まあいわば先年帝展に描いた後ろ向き立姿の婦人が、やや斜めの横顔を見せたとでもいう見当、それが裳長く床几に掛けた足許近く、二枝三枝萩の小枝が風情を添えているというような図です。片双の娘二人の帯や衣裳の色気が相当華やいでいるのと対照させて、新規の方は努めて地味な色合を選んで採り合わせ、萩の葉も殊更に写生の色を避けていっさい緑青気の生々しいものを使わず、葉の数なども実際のものはもっともっと混み合って繁っているのを、故意《わざ》と単調に幽寂な味を見せようとしたものでした。
十月から着手してほぼ仕上ったのが、十二月にかかってからであった。ところが、十一月の末頃までには戻って来るということであった巴里《パリー》への出品が、なかなか来ない。聞けば巴里を終った後で、白耳義《ベルギー》とやらでも展覧会を開いたのだとか。兎もあれ一双揃わねば意味をなさぬ、その的《あて》にしていた片双が、電報で外国《あちら》に問い合せたりして貰った結果どうやら間にあいかねる様子の知れたのが、もう十二月になってからのことです。こんなわけでして、思いがけなく、片双の娘
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