いました。

 しかし時には、私が制作三昧の境にひたりきっている午後を、突然のけたたましい猫族の叫声と、目の前をサッと走るいくつかの素速い動物の巨きな影に思わずハッとなり絵筆を止めさせられることがあります。

 軒下の外縁を彼女らが無断占拠するのはよいとして、それによって屋内の主人である私が時々おびやかされ制作のさまたげをされるのは、
「困った悪戯もの」
 であります。
 ひさしを貸して母屋まで……とつまらぬ俚諺に思いあたってつい苦笑せざるを得ません。

 画室のなかは実に賑やかです。何年か前の美人下絵がいまだに隅に立っていたり、清少納言が何か、もっともらしい顔つきで私を眺めていたりする。

 モデルをあまり使わない私は、夜分など壁へ自分の影を映してそれを参考にしてポーズをとるのです。
 影絵というものは全体の姿だけ映って、こまかい線は映りませんから形をとるのに大へん役立つものであります。

 また大鏡もそなわっていますが、その前に坐っていろいろの姿を工夫するのです。
 時には緋鹿子の長じゅばんを着てみたり振袖をつけてみたり――まるで気が変になったのではないかと思われそうなことをやって
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