どきッとした。光るほどに純白の封筒である。キチンと置かれていた。手を伸ばして、拾いとろうとすると、むなしく畳をひっ掻いた。はッと思った。月かげなのだ。その魔窟の部屋のカアテンのすきまから、月光がしのびこんで、私の枕もとに真四角の月かげを落していたのだ。凝然《ぎょうぜん》とした。私は、月から手紙をもらった。言いしれぬ恐怖であった。
いたたまらず、がばと跳ね起き、カアテンひらいて窓を押し開け、月を見たのである。月は、他人の顔をしていた。何か言いかけようとして、私は、はっと息をのんでしまった。月は、それでも、知らんふりである。酷冷、厳徹、どだい、人間なんて問題にしていない。けたがちがう。私は醜く立ちつくし、苦笑でもなかった、含羞《がんしゅう》でもなかった、そんな生《なま》やさしいものではなかった。唸《うな》った。そのまま小さい、きりぎりすに成りたかった。
甘ったれていやがる。自然の中に、小さく生きて行くことの、孤独、峻厳を知りました。かみなりに家を焼かれて瓜《うり》の花。その、はきだめの瓜の花一輪を、強く、大事に、育てて行こうと思いました。
ほ[#「ほ」はゴシック体]、蛍の光、窓の雪
前へ
次へ
全28ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング