お祭の騒ぎに、一人で僻んで反抗し、わざと汚いふだん着のままで、その薄暗い飲み屋で、酒をまずそうに飲んで居るのでありました。それに私も加わり、暫《しばら》く、黙って酒を飲んで居ると、表はぞろぞろ人の行列の足音、花火が上り、物売りの声、たまりかねたか江島さんは立ち上り、行こう、狩野川へ行こうよ、と言い出し、私達の返事も待たずに店から出てしまいました。三人が、町の裏通りばかりをわざと選んで歩いて、ちえっ! 何だいあれあ、と口々にお祭を意味なく軽蔑しながら、三島の町から逃れ出て沼津をさしてどんどん歩き、日の暮れる頃、狩野川のほとり、江島さんの別荘に到着することが出来ました。裏口から入って行くと、客間に一人おじいさんが、シャツ一枚で寝ころんで居ました。江島さんは大声で、
「なあんだ、何時《いつ》来たんだい。ゆうべまた徹夜でばくちだな? 帰れ、帰れ。お客さんを連れて来たんだ。」
 老人は起き上り、私達にそっと愛想笑いを浮べ、佐吉さんはその老人に、おそろしく丁寧なお辞儀をしました。江島さんは平気で、
「早く着物を着た方がいい。風邪を引くぜ。ああ、帰りしなに電話をかけてビイルとそれから何か料理を此所へ
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