老ハイデルベルヒ
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)懶惰《らんだ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)学生|鞄《かばん》に
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八年まえの事でありました。当時、私は極めて懶惰《らんだ》な帝国大学生でありました。一夏を、東海道三島の宿で過したことがあります。五十円を故郷の姉から、これが最後だと言って、やっと送って戴《いただ》き、私は学生|鞄《かばん》に着更の浴衣《ゆかた》やらシャツやらを詰め込み、それを持ってふらと、下宿を立ち出で、そのまま汽車に乗りこめばよかったものを、方角を間違え、馴染《なじ》みのおでんやにとびこみました。其処《そこ》には友達が三人来合わせて居ました。やあ、やあ、めかして何処《どこ》へ行くのだと、既に酔っぱらっている友人達は、私をからかいました。私は気弱く狼狽《ろうばい》して、いや何処ということもないんだけど、君たちも、行かないかね、と心にも無い勧誘がふいと口から辷《すべ》り出て、それからは騎虎《きこ》の勢で、僕にね、五十円あるんだ、故郷の姉から貰ったのさ、これから、みんなで旅行に出ようよ、なに、仕度なんか
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