しく禿《は》げた頭を二三度かるく振った。自分のふるさとを思いつつ釜から雲呑の実を掬っていた。
「コレ、チガイマス」
あるじから受け取った雲呑の黄色い鉢を覗いて、女の子が当惑そうに呟いた。
「カマイマセン。チャシュウワンタン。ワタシノゴチソウデス」
あるじは固くなって言った。
雲呑は十銭であるが、叉焼雲呑《チャシュウワンタン》は二十銭なのである。
女の子は暫《しばら》くもじもじしていたが、やがて、雲呑の小鉢を下へ置き、肘《ひじ》のなかの花束からおおきい蕾のついた草花を一本引き抜いて、差しだした。くれてやるというのである。
彼女がその屋台を出て、電車の停留場へ行く途中、しなびかかった悪い花を三人のひとに手渡したことをちくちく後悔しだした。突然、道ばたにしゃがみ込んだ。胸に十字を切って、わけの判らぬ言葉でもって
烈《はげ》しいお祈りをはじめたのである。
おしまいに日本語を二言囁いた。
「咲クヨウニ。咲クヨウニ」
安楽なくらしをしているときは、絶望の詩を作り、ひしがれたくらしをしているときは、生のよろこびを書きつづる。
春ちかきや?
どうせ死ぬのだ。ねむるようなよいロマ
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