いる。朝のおみおつけを、出来るだけ、おいしくして差し上げなければならぬ。
律子は、そんな子だった。しっかり者。顔も細長く蒼白《あおじろ》かった。貞子は丸顔で、そうしてただ騒ぎ廻っている。その夜も貞子は、三浦君の傍に附き切りで、頗《すこぶ》るうるさかった。
「兄ちゃん、少し痩《や》せたわね。ちょっと凄味《すごみ》が出て来たわ。でも色が白すぎて、そこんとこが気にいらないけど、でも、それでは貞子もあんまり慾張りね、がまんするわよ、兄ちゃん、こんど泣いた? 泣いたでしょう? いいえ、ハワイの事、決死的大空襲よ、なにせ生きて帰らぬ覚悟で母艦から飛び出したんだって、泣いたわよ、三度も泣いた、姉さんはね、あたしの泣きかたが大袈裟で、気障《きざ》ったらしいと言ったわ、姉さんはね、あれで、とっても口が悪いの、あたしは可哀想な子なのよ、いつも姉さんに怒られてばっかりいるの、立つ瀬が無いの、あたし職業婦人になるのよ、いい勤め口を捜して下さいね、あたし達だって徴用令をいただけるの、遠い所へ行きたいな、うそ、あんまり遠くだと、兄ちゃんと逢えないから、つまらない、あたし夢を見たの、兄ちゃんが、とっても派手な絣《
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