、ねずみが、あるくやうであつたわい。けいこ、三十。
○同二十六日。てんき。そこやかしこにゆき。
○同二十七日。かみをいうたり、ふろへ、はいつたり。むしのこゑ、みづが、ながれるやうな。たへかねて、
  なにことも。ひとのこころに。まかす身は。いつをそれとも。さだめかねつる。
  おかや。ひとり寝。さみせんにて。
○同二十八日。けいこ、あいすみ。つらきめに、あいたることか。ふつふつ、つかれた。四そく(足)かなわず。いわれず。きこゑず。ただ、ただ、見ゆるばかりで。ふふ。

       同断中略。

○九月二十五日。このごろわ、あきのなかばなるに、うたもよめず、これでわ、こまつたものかな。かぜを、ひきて、ねたり。みぎのかほが、は(腫)れ、なにやらかやら、たのしまず。そこへ、だいかぐら(大神楽)が来たが、ぶざいくな、やつであつた。
○同二十六日。ただ、しんきに、くらしたり。かぜ、すこしわ、よろしく。
○同二十七日。お(起)きて、ははに、あふ。おかやのことわ、言わず。
○同二十八日。あまりのさびしさに。
  さけもあり。もち(餅)もあるなり。ゆふしぐれ。
  同よる。ばくちを、うつ。
○同二十九日。けいこ、一つ。
○同三十日。おかやわ、ふびんなり。あまりのことなれば、かくここに、しるす。みのこくより、けいこ。じゆの一、さみせん、きくのつゆ。おさわ、琴にて、馬追ひ。
○十月一日。あさ、すこし、あめふる。つぎに、かぜが、だいぶん、ふき候。同ばんかた、わが言ひしことを、そくざにおいて、打ちけされけることあり。にくき、やつばらめ。
○同二日。はし(橋)にて、であい、ひさしぶりにて、はなしをする。
  さむしとて。かさぬるそでの。かひなきに。かくこそむかへ。うづみびのもと。

       同断中略。

○十一月十六日。けいこ。よる、ゆきがふる。よくおもひみれば、日かずが、はや、なにほどもない。
  よのわざに。けふもひかれて。くらしけり。あすも同。みとは知りにき。
  どこでも、ふそくを言わるるにわ、わしも、へいこを。そこでも、いわれ、ここでも、いわれ。それにつき、わが師のいわく、けいこにんをば、わが子とおもへ、といへり。
○同十七日。みのこくに、いでて、ひつじのこくに、おべ村くわだに、きたる。どこへいつても、けいこの子の、ほかのようじ(用事)にて、いそがしきときほど、まの、わるいも
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