うかと、汽車の中で考えに考えて来た事に違いない。
「生活というのは、つまり、何ですね、あれは、何でも無い事ですね。僕は、学校にいた頃は、生活というものが、やたらにこわくて、いけませんでしたが、しかス、何でも無いものであったですね。軍隊だって生活ですからね。生活というのは、つまり、何の事は無い、身辺の者との附合いですよ。それだけのものであったですね。軍隊なんてのは、つまらないが、しかス、僕はこの一年間に於《お》いて、生活の自信を得たですね。」
列はどんどん通過する。僕は気が気でない。
「おい、大丈夫か。」と僕は小声で注意を与えた。
「なに、かまいません。」と君は、その列のほうには振り向きもせず、「僕はいま、ノオと言えるようになったですね。生活人の強さというのは、はっきり、ノオと言える勇気ですね。僕は、そう思いますよ。身辺の者との附合いに於いて、ノオと言うべき時に、はっきりノオと言う。これが出来た時に、僕は生活というものに自信を得たですね。先生なんかは、未だにノオと言えないでしょう? きっと、まだ、言えませんよ。」
「ノオ、ノオ。」と僕は言って、「生活論はあとまわしにして、それよりも君、
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