、華美相競うていたずらに奢侈《しゃし》の風を誇りしに過ぎざるていたらくなれば、未だ以て真誠の茶道を解するものとは称し難く、降《くだ》って義政公の時代に及び、珠光なるもの出でて初めて台子真行《だいすしんぎょう》の法を講じ、之《これ》を紹鴎《しょうおう》に伝え、紹鴎また之を利休居士に伝授申候事、ものの本に相見え申候。まことにこの利休居士、豊太閤に仕えてはじめて草畧の茶を開き、この時よりして茶道大いに本朝に行われ、名門豪戸競うて之を玩味《がんみ》し給うとは雖も、その趣旨たるや、みだりに重宝珍器を羅列して豪奢を誇るの顰《ひん》に傚《なら》わず、閑雅の草庵に席を設けて巧みに新古精粗の器物を交置し、淳朴《じゅんぼく》を旨とし清潔を貴び能く礼譲の道を修め、主客応酬の式|頗《すこぶ》る簡易にしてしかもなお雅致を存し、富貴も驕奢に流れず貧賤も鄙陋《ひろう》に陥らず、おのおの其分に応じて楽しみを尽すを以て極意となすが如きものなれば、この聖戦下に於いても最適の趣味ならんかと思量致し、近来いささかこの道に就きて修練仕り申候ところ、卒然としてその奥義を察知するにいたり、このよろこびをわれ一人の胸底に秘するも益な
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