珀《こはく》色で、アルコール度もかなり強いように思われた。
「優秀でしょう?」
「うむ。優秀だ。地方文化あなどるべからずだ。」
「それから、先生、これが何だかわかりますか?」
 青年は持参の弁当箱の蓋《ふた》をひらいて卓上に置いた。
 私は一目見て、
「蛇《へび》だ。」
 と言った。
「そうです。マムシの照り焼です。これもまた、地方文化の一つじゃないでしょうか。この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらした結果、こんなものが出来上ったんです。地方文化研究のためにも、たべてみて下さい。」
 私は、観念して、たべた。
「いかがです。おいしいでしょう?」
「うむ。」
「精が、つきますよ。これを、一度に五寸以上たべると、鼻血が出ます。先生はいま、二寸たべましたから、まだ大丈夫。もう二寸たべてごらんなさい。四寸くらいたべたら、ちょうどからだにいいでしょう。」
 私は仕方なく、
「それでは、もう二寸、ごちそうになりましょう。」
 と言って、たべた。
「いかがです。からだが、ぽかぽかして来やしませんか。」
「うむ。ぽかぽかして来たようだ。」
 突然、青年は、声を挙げて笑った。

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