どうせ作るなら、おいしくて、そうしてたくさん飲んでも二日酔いしないような、上等なものを作る。濁酒に限らず、イチゴ酒でも、桑《くわ》の実酒でも、野葡萄《のぶどう》の酒でも、リンゴの酒でも、いろいろ工夫《くふう》して、酔い心地のよい上等品を作る。たべものにしても同じ事で、この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらす。そうして皆で愉快に飲みかつ食う。そんな事じゃ、ないかしら。」
「先生は、濁酒などお飲みになりますか。」
「飲まぬ事もないが、そんなに、おいしいとは思わない。酔い心地も、結構でない。」
「しかし、いいのもありますよ。清酒とすこしも変らないのも、このごろ出来るようになったのです。」
「そうか。それがすなわち、地方文化の進歩というものなのかも知れない。」
「こんど、先生のところに持って来てもいいですか。先生は、飲んで下さいますか。」
「それは、飲んであげてもいい。地方文化の研究のためですからね。」
数日後に、その青年は、水筒にお酒をつめて持って来た。
私は飲んでみて、
「うまい。」
と言った。
清酒と同様に綺麗《きれい》に澄んでいて、清酒よりも更に濃い琥
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