、もう怒らないで下さい。あなたは、すぐ怒るからいけません。もう、あんな長い堂々のお手紙ばかりはごめんですよ。
ご存じですか? 私は、あなたとこんな手紙の往復が出来て、幸福なんですよ。私は、二十も若くなりました。草々頓首。
七月七日深夜。[#地から3字上げ]木戸一郎
井原退蔵様
木戸君。
やっぱり自分のほうが、君より役者が一枚上だと思った。君は、なんのかんのと言いながらも、とにかく仕事をはじめる気になったじゃないか。自分の長い手紙も、決してむだではなかったのです。作家は、仕事をしなければならぬ。ひょっとしたら自分も、二三日中に旅に出る事になるかも知れない。その時には君の宿へも立ち寄ってみたいと思っている。面白い宿です。外八文字は、案外、君に気があるのかも知れぬ。もういちど話かけてみたら、どうですか。不取敢《とりあえず》、短い[#「短い」に傍点]葉書を。不一。
七月九日[#地から3字上げ]井原退蔵
謹啓。
しばらく御無沙汰して居りました。仕事を一段落させてから、ゆっくりお礼やらお詫びやらを申し上げようと思って、きょうまで延引してしまいました。おゆるし下
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