と思います。五十円持って旅に出たまずしい小心者が、そのお金をどんな工合いに使用したか、汽車賃、電車代、茶代、メンソレタム、一銭の使途もいつわらず正確に報告する小説を書こうと思います。
ふざけた事ばかりを書きました。きょうは女房から手紙が来ました。御自重下さい、と書かれていましたので、げっそり致しました。しず子(私のひとり娘です。五歳になります。)もおとなしくお留守番をしています、とも書かれていました。どうしても、ここで一篇、小説を書かなければ、家へも面目なくて帰れない気持です。毎日こんな、だらしない事では、どう仕様もございません。
どうやら今夜の手紙も、しどろもどろ(あなたの言葉で言えば、嘘だらけ)の手紙になりました。かなぶんぶんが、次から次と部屋へはいって来て、どうも落ちついて書けませぬ。この部屋は、この宿のうちで最下等の部屋のようであります。襖《ふすま》の絵が、全然なっていません。一本の梅の枝に、鶯《うぐいす》が六羽ならんでとまっている絵があります。見ていると、腹が立って来ます。ひどい絵です。
だらだら勝手な事ばかり書いて来ました。いちいちお読み下さったとしたら恐縮です。でも
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