い、それこそ実《み》も蓋《ふた》も無い素朴な表現に驚嘆したのも、たしかな事実でありますが、その表現せられている御意見には、一つも啓発せられるところが無かったというのも事実でありました。いまさら何を言っていやがると思いました。私たちを、へんなお手本に押し込めて、身動きも出来なくさせたのは、一体、誰だったでしょう。それは、先輩というものでありました。心境未だし、デッサン不正確なり、甘し、ひとり合点なり、文章粗雑、きめ荒し、生活無し、不潔なり、不遜《ふそん》なり、教養なし、思想不鮮明なり、俗の野心つよし、にせものなり、誇張多し、精神|軽佻《けいちょう》浮薄なり、自己陶酔に過ぎず、衒気《げんき》、おっちょこちょい、気障《きざ》なり、ほら吹きなり、のほほんなりと少し作品を濶達に書きかけると、たちまち散々、寄ってたかってもみくちゃにしてしまって、そんならどうしたらいいのですと必死にたずねてみても、一言の指図もしてくれず、それこそ、縋《すが》るを蹴とばし張りとばし意気揚々と引き上げて、やっぱりあいつは馬鹿じゃ等と先輩同志で酒席の笑い話の種にしている様子なのですから、ひどいものです。後輩たる者も亦《ま
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