怒って下さい。けれども絶交しないで下さい。私は、はっきり言うと、あなたの此の優しい長い手紙が、気に食わぬのです。葉書の短い御返事も淋《さび》しいのですが、こんなにのんきにいたわられても閉口です。私の作品には、批評の価値さえありません。作品の感想などを、いまさら求めていたのではありません。けれども、手紙の訴えだけには耳を傾けて下さい。少しも嘘なんか書きませんでした。どこが、どんなに嘘なのでしょう。すぐに御返事を下さい。
わがままは承知して居ります。けれども、強い体当りをしたなら、それだけ強いお言葉をいただけるようでありますから、失礼をかえりみず口の腐るような無礼な言いかたばかり致しました。私は、世界中で、あなた一人を信頼しています。
御返事をいただいてから、ゆっくり旅行でもしてみたいと思って居ります。「へちまの花」の印税を昨日、本屋からもらいましたので。なおまた、詩人の加納さんとは、未だ一度もお逢いした事はありませんが、あなたから、機会がございましたら、木戸がよろこんでいたとおっしゃって下さい。加納さんは、私と同郷の、千葉の人なのです。頓首《とんしゅ》。
六月三十日[#地から
前へ
次へ
全70ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング