僕は笑いをこらえながら、
「しかし、御不浄へ行く前でよかった。御不浄から出て来た足では、たまらない。何せ眉山の大海《たいかい》といってね、有名なものなんだからね、その足でやられたんじゃ、ミソも変じてクソになるのは確かだ。」
「何だか、知りませんがね、とにかくあのおミソは使い物になりやしませんから、いまトシちゃんに捨てさせました。」
「全部か? そこが大事なところだ。時々、朝ここで、おみおつけのごちそうになる事があるからな。後学のために、おたずねする。」
「全部ですよ。そんなにお疑いなら、もう、うちではお客さまに、おみおつけは、お出し致しません。」
「そう願いたいね。トシちゃんは?」
「井戸端《いどばた》で足を洗っています。」
 と橋田氏は引き取り、
「とにかく壮烈なものでしたよ。私は見ていたんです。ミソ踏み眉山。吉右衛門《きちえもん》の当り芸になりそうです。」
「いや、芝居にはなりますまい。おミソの小道具がめんどうです。」
 橋田氏は、その日、用事があるとかで、すぐに帰り、僕は二階にあがって、中村先生を待っていた。
 ミソ踏み眉山は、お銚子を持ってドスンドスンとやって来た。
「君は、ど
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