こか、からだが悪いんじゃないか? 傍に寄るなよ、けがれるわい。御不浄にばかり行ってるじゃないか。」
「まさか。」
と、たのしそうに笑い、
「私ね、小さい時、トシちゃんはお便所へいちども行った事が無いような顔をしているって、言われたものだわ。」
「貴族なんだそうだからね。……しかし、僕のいつわらざる実感を言えば、君はいつでもたったいま御不浄から出て来ましたって顔をしているが、……」
「まあ、ひどい。」
でも、やはり笑っている。
「いつか、羽織の裾《すそ》を背中に背負ったままの姿で、ここへお銚子を持って来た事があったけれども、あんなのは、一目瞭然《いちもくりょうぜん》、というのだ、文学のほうではね。どだい、あんな姿で、お酌《しゃく》するなんて、失敬だよ。」
「あんな事ばかり。」
平然たるものである。
「おい、君、汚いじゃないか。客の前で、爪の垢《あか》をほじくり出すなんて。こっちは、これでもお客だぜ。」
「あら、だって、あなたたちも、皆こうしていらっしゃるんでしょう? 皆さん、爪がきれいだわ。」
「ものが違うんだよ。いったい、君は、風呂へはいるのかね。正直に言ってごらん。」
「それあ
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